- トップページ
- >
- 肥満と腰痛は関係あるのですか?
肥満と腰痛は関係あるのですか?
- 2020/08/04
<肥大化した脂肪細胞から分泌される生理活性物質(アディポカイン)が軽妙な炎症をもたらし関係する可能性があります>
肥満と腰痛との間に関連があるかどうかにつきましては、病態に踏み込んだ知見がなく、疫学研究においても意見が分かれるところでしたが、最近のメタ解析を行った論文では、オッズ比は1.3とそれほど高くないもののBMIが25/㎏/㎡以上の肥満者の方が有意に高く、30㎏/㎡以上の肥満者ほどその傾向が強いと報告されています。
某病院のデータでも、横断研究の結果がありますが、1,347名の人間ドック受診者(平均52歳)を対象にした調査、及び全国20~70歳代の方から1,200名抽出しましたインターネット調査とも、有意に肥満者(25㎏/㎡)ほど腰痛有訴率が高いという世界標準の腰痛スコアが高いという知見を得ています。しかしながら、調査での腰痛は、ほとんどが程度の軽い腰痛であり、前述しました勤労者のを対象とした前向き研究(JOB study)での分析では、仕事に支障を来すほどの非特異的腰痛が発生することや慢性化することの危険因子ではありませんでした。
つまり、「肥満は、程度の軽い腰痛には関係しますが、仕事に支障を来すほどの腰痛までには影響しない」と考えています。長年、腰痛で困られている患者さんを治療した経験上でも、肥満の方が多いという印象はありません。
それでは、どうして肥満が程度の軽い腰痛があることや、坐骨神経痛の発生と関係するのでしょう。よく巷で言われる腰に掛かる物理的な負担ということだけで説明してしまってよいのでしょうか? まだまだ仮説の域を脱していませんが、肥大化した脂肪細胞が分泌するレプチン、レジスチンなどの生理活性物質(アディポカイン)と、それらが誘導する炎症性サイトカインが関与している可能性があるのでは?と考えています。アディポカインは、糖尿病や動脈硬化を促進する因子として知られており、メタボリックシンドロームや生活習慣病でも、近年よく聞かれる言葉ですが、軽妙でありますが全身的な炎症に関与しているため、運動器や神経にも悪影響を与えてもおかしくありません。実際に、基礎的な研究では、膝の滑液のアディポカインが痛みと関連があるとする報告や、神経が障害されることにアディポカインが重要な役割を果たしていることを示したラットでの知見があり、加えて肥満者では症状が現れていなくても下肢抹消神経の伝導異常があることを示した報告もあります。
断定的なことは言えませんが、肥満者における坐骨神経痛を含む腰痛の病態には、メカニカルなストレス(脊椎の機能障害)と心理的ストレス(脳の機能障害)に加え、軽微な慢性炎症も関与している場合があるかも知れないという認識を持つと良いでしょう。
以上のことから、炎症を減らし、運動器や神経に関わる痛みを予防するために肥満対策は重要だと考えます。いわゆる生活習慣病対策、そして、身体の痛みを予防するといった包括的な健康維持という観点から運動を習慣化し、肥満防止に努めた方が良いということになります。